キミと俺の距離

 あいつはいつも夜にやって来る。それも、窓から。そして今日もやっぱりやって来た。しかし今日だけは遠慮して貰いたかったのが、男心というものだろう。
「純、あのさぁ…」
 がらっという音と共に足を窓枠に掛けて身を乗り出して来たあいつは見事に固まった。しかし固まったのはあいつだけではない。俺も、俺の彼女も固まった。
 今日ほど窓に鍵を掛けてれば良かったと思った事は無い。状況が状況だけに、言葉が出てこない。ちらりと下を見れば、俺以上に固まった彼女。半裸のその姿は大変良い眺めである訳だが、もう、なんか、萎えた。ヤル気充分だったのに、あいつのせいで一気に吹き飛んだ。
「彩、お前さぁ」
「……。純何してんの」
 こっちが聞きたいわ。しかしその言葉は彩の顔を見た瞬間、頭から消え去った。とてつもない絶対零度の微笑み。はっきり言って、すこぶる怖い。そのまま彩は俺に向かって顎をしゃくってきた。はぁ?と、首を傾げれば、冷たい笑顔を向けられた。
 ちょっと考えて下を見て納得する。いつまでも女に馬乗り、てのは見た目が悪い。上半身を起こして、脱がしていた彼女の制服を身体にかけてやる。その行動でやっと状況を把握したらしい彼女は、顔を真っ赤に染めて彩を睨む。
「何なのよ!アンタ!!」
「純の幼馴染でお隣さん」
 わぁお。火に油を注いじゃったよ。うーん、カノジョも醜悪な顔してるよね。やっぱり夜のお相手にはケバイのは向いてるけど、彼女には向かないよね。
「取り敢えず、服着てくれる?」
 やんわりと頼めばこっちに怒りの形相。うん、俺に怒っても意味無いよね。俺だって被害者だよ。
「何!?このオンナ!!」
「うーん。俺の特別、かな」
「はぁ!?」
 涼しい顔でそう答えれば、カノジョは彩に向かって近付いて行く。嫌な予感がしながらそろりと近付けば、彩に向かって振り上げられる手。慌ててそれを止めれば、カノジョは今度は俺に向かって手を振り上げた。それは甘んじて受けようと決めれば、視界に入ったのは顔を強張らせた彩。あぁ、拙いことしたな。
 ばちん、と盛大に音が響いて俺の右頬は熱を帯びる。うん、地味に痛いよね。女の細腕でも痛いよね。まぁ、男に殴られるのよりはマシだけど。
 挙句の果てに、もう一つの予想外。彩が俺を引っ叩いたカノジョを思いっきり、容赦無く叩いた。
今にも泣きそうな顔。ちょっとソソられる。や、不謹慎なのは判ってマス。
「彩」
「何よ!ジュンはあたしよりそのオンナの味方なわけ!?」
「うん。そうなるかな」
 顔を真っ赤に染めたカノジョよりも優先は彩。それは昔からの真理。こんなド修羅場にあやを巻き込むのは計算外だったけど、まぁ良いや。どうせこのカノジョとも一夜限りの予定だったし。
「サイテー!!」
 ありきたりな捨て台詞と共にカノジョは俺の部屋から出て行った。それを見送ってから、俺は彩をベットの方に座らせようとして、ちょっと考えた。
致してはいないが、他の女と致そうとしたベットに座らせて良いものか。それを敏感に感じ取った彩は自分から進んでいつもの様にベットに腰掛ける。制服のままの彩はベットに座れば、必然的に短くなるスカートの事をたいして気にもしない。
白い、綺麗な肌。美味しそうな太腿の大部分が見えるその姿は、危険物指定にしても可笑しくは無い代物。純情な奴なら目を逸らすんだろうけど、生憎俺はチャンスとばかりに見つめる。それに気付いても彩は苦笑いで済ましてくれるし。
「純、口切れてる」
「え、マジ?」
 俺が手を口許に当てる前に、彩の白くて細い指が伸びてくる。俺の手を掴んで押し留め、俺の方に顔を近づける。彩の口から伸びてきた真っ赤な舌を眺め、それを自分の舌に絡めたいという衝動と戦う。その間に彩は少し滲んでいたらしい俺の血を舐め取る。
 少し長い前髪からちらちらと見え隠れする瞳は、誰をも魅了する朱金。普段の黒い瞳も好きだが、彩の朱金の瞳は格別。それを見られる人間に自分が含まれる事にものすごい優越感が起こる。
 少し顔を引くから、つい俺は空いている方の腕を持ち上げて彩の後頭部を押さえ込む。そしてにやりと笑いながら囁く。
「それだけで足りるの?」
 意地が悪い聞き方だっていうのは判ってるんだけど。ほら、好きな子ほど苛めたいってやつ。実際に俺の言葉に彩はちょっと困った顔。
 うん。判って聞いてるからね。
「もう少し、欲しい」
「ね、彩。いつものやつは?」
「………」
「あ、そ。別に俺は良いんだよ。あげなくても」
 困るのは彩だし。そう言ってやれば、彩はちょっとむっとした顔になる。そのころころと変わる表情に俺は自然に口が綻ぶ。それを彩はどう取ったのか判らないけれど、小さく意地悪と言って覚悟を決めたようだ。
「純が、欲しい」
 そう囁き、俺の唇にそっと彩の唇が触れた。ほんの少し。直ぐに離れたそれが、物凄く残念だけど、仕方が無い。俺が決めたおねだりだし。ちゃんと彩はそれをしたんだから。
「良く出来ました。ドーゾ、オヒメサマ」
 シャツのボタンを外して、首筋を晒して顔を埋めやすい様に首も傾げてみせる。それに彩はおずおずと近付く。
「純、別に私は、手首でも良いんだけど」
「どうやって飲むかは、俺が決めるって言ったよね」
「……イタダキマス」
「はいはい」
 首に彩の顔が近付く。優しい香りが俺の鼻をくすぐる。動脈を探るように首筋を舐めていく。それにぞくりと背筋が粟立つ。決して恐怖や不快なわけではない。
 欲望によってそうなっているのは自分が一番理解している。彩をぎゅっと抱き潰しそうで、細心の注意を払いながらその細い腰に腕を回した。それと同時に首筋を咬まれる感触。
 痛みは無い。むしろ気持ち良い。まじで癖になりそう。
 ごくりと、彩が俺の血液を飲む音が部屋にこだまする。きっと彩は猫のように目を細めているのだ。嬉しそうに、美味しそうに飲んでいるのだと思うと、嬉しくなる。
 彩の手に力が篭められる。夢中で飲んでいるその姿に、俺は満足の溜息を吐き出す。それから気になりだすのは、彩の柔らかい胸の感触。細くても骨っぽくは無い円やかな腰。撫で回したくなる長いしなやかな脚。それを食べたくなり、無意識のうちに湧き上がってきた唾を、俺はごくりと飲み込んだ。
 それを制御するほうに意識を持っていかれていて、気付くと彩は俺の首から顔を離して、食べこぼしの血液を追って鎖骨や胸の辺りを舐めていた。
「彩。ストップ」
 いろいろとこれ以上はマズイ。彩にとっては大した事がなくてもこっちには大打撃だ。我慢しきれなくなる。こっちも健全なセイショウネンですから。
 彩は想像したとおりに不満げな顔。ホント、何にも判ってないよね。男の事情ってものが。
「もう良いの?」
「うん。まぁね、ちょっとで大分持つし」
「でも不満そうだけど?」
「勿体無い」
 その視線はごしごしと力任せに拭いた血の事を言っているのは判ってる。不満そうだけど、ちょっと貧乏性な感がする。御嬢様なはずの彩の言葉に有るまじき、だ。
「勿体無くない」
 そして俺はもう一度彩を腕の中に仕舞い込む。顔を上げた彩に、にやりと笑ってみせる。
「じゃあ、対価、イタダキマス」
 そっと彩の唇に触れる。甘い香り。何度も啄ばむ様に唇を触れ合わせれば、彩はそっと口を開いてくれる。うん。俺の調教の賜物。
 心の中だけで、もう一度イタダキマス、と唱えて舌を遠慮なく彩の腔内に進入させる。彩の中はさっきまでの俺の血がある筈なのに鉄錆び臭く無い。苦くも無い。ひたすらに甘い。その甘さに、酔った様に貪る。上顎を丹念に舐め上げ、歯列も何度もなぞる。ぴくぴくと彩が跳ねるのを押さえ込んで、彩の舌に絡ませる。彩から溢れる唾液は全て啜り上げ、飲み込む。彩はどこもかしこも全て甘い。そして純血の彩は唾液にさえも力が宿っている。混ざり物の俺には彩の唾液で充分エネルギーになる。うん。美味い。
 でも俺が欲しいのは全部。彩の全部、身体も心も、何もかも全部。俺無しでは生きていけないと思わせる程、俺に溺れさせたい。
 そう取りとめも無い事に意識を遣っていると、彩がもぞもぞと動き始める。俺の胸に手を当てて、もう片方の手は俺の大腿に添えられる。男の事情的にはその辺りに触れては欲しくないのだけど。ちょっとだけ腕の力を緩めてやれば、彩は俺から身体を離す。
 でもおれはまだ離したくはない。だから未練がましくも彩の口の中に居座る。それを彩は切り離そうともがいた。その結果、俺の舌は彩の中から強制撤去させられた。彩の中から出て行く俺の舌からは彩と繋がろうと細い銀糸が伸びる。それを視界に入れたらしい彩は今まで以上に赤面する。
 俺の血を飲むときの扇情的な姿も腰に来るけど、こういう表情もイイ。
「もう帰る」
「帰る、てまだ叔父さんたち出掛けてないだろ」
「ん。でももう直ぐ出て行くはずだし」
 大丈夫、と弱々しく笑う彩に俺は手を伸ばす。しかしその手には彩は縋る事はない。俺の部屋を横切り、いつものように窓枠に脚をかける。下着が見えそうな微妙なその角度がなんとも堪らない。が、そんなことは今はどうでも良くて。
「大丈夫じゃなかったらちゃんと非難して来いよ」
「ん」
 言葉少ななそれは彩が緊張しているときの癖。
「あ、あの子。邪魔してごめんね?」
心配になりながらも彩は来た時同様に窓から自分の部屋に帰っていった。余計な一言を添えて。
「誰のせいでオンナ漁ってると思ってんだよ」
 彩が俺をそういう対象としてみないから仕方なく欲求不満の相手を探してるんだろ。とは彩には言いにくい。たぶん首かしげてお終い。自分でも思う。不毛な恋だよなぁ。
「あっちは出来損ないでも純血のオヒメサマ」
 こっちは人間との混ざり物。普段の生活では支障が全く無いほどの人間より。まぁ、純血ともなると、日光浴びたぐらいじゃ灰にもならない。彩を疎んじる両親は、ヴァンパイアとしての能力が開花しない彩を役立たずと決め付けてる。
「彩って血も嫌いだしなぁ」
 考えると彩って、ホントにヴァンパイアらしくない。普段は人間と同じ食べ物で充分生きていけるが、たまに血液を摂取しなくては死んでしまう。だから俺の血を飲むんだけど、他の人間の血だと不味いって言って吐き出した。それが彩と彩の両親を仲違いさせる決定的な要因。
 俺的には彩を独り占めできるからラッキーだったけど。
 何かがおかしいと気付いたのは、学校に彩が来なくなって一週間が過ぎた時。偶に学校をサボる事はよくあった。褒められた事ではないけど、仕方が無い。ひと月に一回ぐらいのペースで起きる現象。身体が動かなくなって、日光に浴びる事も出来なくなってしまうらしい。
 だから今回もそれだと思った。その時には夜も俺のところには来ないから、そうなんだ、と勝手に判断していた。
でもそれは間違いで。
「彩―?」
 がらり、と彩の部屋の窓はあっさりと開いた。侵入した俺が言うのもなんだけど、防犯の面で途轍もなく不安だよね。これは後でしっかりと言い聞かせねば、と思ったとき。
 すでに違和感はあった。それは俺の最悪の想像を上回るもの。
 彩の部屋の床に広がる、黒い髪。月の淡い光に薄らと浮かび上がる白い肢体。その身体に散る赤い色。
 目の前が真っ赤に染まる。怒りに震えるその身体を何とか押し留めて、俺は彩の傍に膝を付ける。そっと身体に触れる。ぞっとするほどに冷たい身体は、呼吸に合わせて微かに胸が上下していた。意識の無い彩に、俺の血を飲ませようとしても上手くいかない。イラつきながら俺は自分の血を口に含む。すこぶる不味い。血なまぐさい。
 彩の唇に合わせ、舌を侵入させ、血を流し込む。少しずつ飲み込む様子に安心して、彩に俺が着ていた上着を掛けてやる。それから彩のベットから毛布も引き摺り下ろして掛ける。そこまでして満足した俺は彩の部屋を出て行く。
 たぶん、今の俺は怒りで冷静な判断が出来ていないんだと思う。だからこんな暴挙に出れる事も理解している。
「あんた達さぁ、何してんの」
 怒りに普段よりも低い声で話しかけるのは彩の両親。食物連鎖で言えば頂点に立つ存在。純血のヴァンパイア二人。二人は俺を見た後、鼻で笑いやがった。ふざけんな。俺の彩をあんな目に遭わせたくせに。
「もう忘れたわけ?彩は俺のだって」
 泣かせても、傷つけてもいいのは俺だけ。あんた達が傷つけていい存在じゃない。彩は俺のためだけに生まれて、俺だけのために存在し続けてくれている。
「彩はあんた達の娘でも、俺のなんだよ」
 みしり、と何かが軋む音が聞こえた。うん。マジギレだけど何か。怒りに染まる二人を鼻で笑う。
「混ざり物如きが!」
 うん。俺は混ざりもの。それは変わらない。親父が人間である母さん溺愛してるし。でも混ざりものでも食物連鎖の頂点に立てるんだよね。彩が純血であるにも拘らず、食物連鎖の下の方に居るみたいに。
「ホント、あんたら、もう用無し」
 見下しながらそう宣言する。もうこいつらの傍に彩は置いておけない。自分の娘を傷つけるような最低な親の傍に居させない。俺が許さない。
「邪魔だから、跡形もなく消え去ってよ」
 右手を振り上げればそこに生まれるのは赤を通り越した蒼い炎。生まれた中で一番凶悪な笑顔を浮かべて、二人の役立たずに告げる。
「消し炭になってしまえ」
 その炎を避けようとした二人を逃す事なんてしない。宣言どおり消し炭になって頂いた。うん。すっきり綺麗になったね。でもこんな無駄に広い家に彩一人で住まわせる気なんて無い。我が家の一員になってもらうのは会ったときから決めてたし、ちょっと早い気もしないけど、良いか。
「彩」
 優しく、細心の注意を払って彩を抱き上げて囁く。俺の声に反応して彩は薄目を開けて俺を見る。そっと伸びてきた彩の手を、邪魔することなく好きにさせると、俺の頬に手を宛てた。なに、と聞けば彩はちょっと眩しいみたいに眼を細めた。
「じゅん、きんいろのめ」
 なんとか搾り出したみたいな彩の言葉に驚いた。俺は普段、擬態なんかしていない。母さんと同じ黒い瞳の筈だ。金色は純血のヴァンパイアの証。
「………俺、母さん似だった筈だけど」
「?きれいなきんいろ。わたしとおそろい」
 へにゃり、と顔を崩した彩の笑顔に、こっちまで笑顔になる。舌足らずな彩の言い方に愛おしさが込み上げながら、お揃い、と呟いた。
 俺は自分の部屋に彩を連れて帰り、ベットに降ろして、毛布と布団できっちり包んでから、下に降りた。
 そこにいる両親、特に親父のほうに今の俺の状態を見せる。親父は微かに眼を開いただけ。
「お前、俺の子だったんだな」
 その一言に母さんが親父を容赦なく殴る。まあ、そうだよな。自分を信じてない発言に誰だってブチ切れるわ。俺だって残念なものを見る眼で見たし。
「アンタと同じ顔した息子によくそんな事言えるよね」
「や、うん。咲サン痛いから、もうやめてくれる?」
「翔くん、私に言う事はそれじゃあ無いわよね?」
「ゴメンナサイ。許して咲サン」
 この会話だけで俺んちの力関係丸解かりだよね。溜息をつきながら母さんを止める。
「母さん、アイツがサイテーなのは今に始まった事じゃないでしょ」
「それもそうね」
「純クン!?咲サン!?」
「で、これどういうことなわけ?」
 これ、と自分の眼を指しながら聞けば、あまりにもあっさりと凄い事を言ってのけた。この親父まじで信じらんねぇ。ちょっと頭冷やして来い。
「俺が純血だから仕方ないだろ。しかもお前の能力、明らかに先祖返りだし」
 純血だけが持つ金色の瞳も、純血の親父のせいで俺が受け継いだってことか。
「まぁ、結果的に良かったんじゃね?月城のとこの子姫、嫁にもらえるし」
 問答無用で親父を家から放り出した。おんおん煩い親父に野宿しないで済む様に財布を投げつける。きゃんきゃん犬のように吠えてたのがぴったりと鳴き止む。それをにこにこと笑って見ていた母さんは今の時間に台所に立つ。
「何してんの?」
 母さんの手元を覗き込めば、小豆。
「お赤飯炊こうと思って。彩ちゃんがお嫁に来てくれるだなんて、お母さん嬉しいわぁ」
「気が早すぎだから!!」
「あらあら。否定しないのね」
「ぐ!」
「で、彩ちゃんはお二階?」
「……………うん」
 あらあら、と母さんは困った顔をしながらも、嬉しそうだ。まぁ、彩を見る度にこんな可愛い子欲しかったわぁ、なんて言いながら撫で回してたもんなぁ。
「でも母さん。俺まだ彩に好きだって言ってない」
「今すぐ結婚を前提に告白してらっしゃい」
「それってプロポーズって言わない?」
「俺は全てをすっ飛ばして既成事実を作ったぞ」
 そう言って現れたのは、親父。母さんに真相を問えば、悲しそうに頷く。
「あんた、男としてほんとサイテー」
「純くんは見習っちゃ駄目よ」
「当たり前。」
 俺はすぐさま自分の部屋に戻る。その後ろからは、頑張ってね、なんて声援も頂いた。
「彩?」
 部屋に入ればベットに起き上がってぼんやりしてる彩が居た。俺は彩の近くまで寄って、ベットに浅く腰掛けた。
「純、私、どうして此処に居るの?」
「彩がこれ以上傷つかなくて良い様に、俺が攫ったの」
「本当に?」
 首を傾げて聞いてくる様は、俺の直球ドストライク。挙動不審一歩手前の状況でぎこちなく頷いた。
「だからさ、ちょっと早いけど、約束どおり俺のお嫁さんになってよ」
 俺の言葉に眼をまん丸にした彩に、失敗したなぁ、なんて思ったり。彩は俺の言葉を噛み締めるように何度も呟く。うん。居た堪れないからやめて。
 それから顔を上げた彩は、華が綻ぶような笑顔を俺に見せてくれた。
「うん。私もずっと純が好き」
 幼馴染の関係を壊したくなかったのは、俺のプライドのせい。断られたら、ていう思いに身動きが取れなくて、彩が俺をどう見てるか解からなくて。
 今、俺は彩の隣を確保した。