常に一番上に名がある二人がいた。一人は筆記は全て満点。もう一人は実技が満点。
ちらり、とその張り紙を見てから教室へと向かう。
「フェン、実技最低だったわよ」
呆れた顔でそう言うのは金髪の美少女。机に突っ伏したままのフェンに近付く。
「フェーンー?」
「………聞こえてる」
のそのそと動くそれに近付く。ぼさぼさの灰色の髪をそのままに面倒そうな表情を隠さない。
「リーリアはどうだったのさ」
「どっちも二位をキープよ」
自信に満ちた顔。フェンはそれを見てより一層暗い表情になった。
リーリアはこの学院に入ってからずっと二位だ。筆記も実技も、だ。それは凄い事なのだ。
「フェン、貴女いつから実技あんなのになったのよ」
フェンは学院に入ったばかりの頃は実技、筆記共に一位を保っていた。いつの頃からか実技は最低になっていたが。
その理由は言おうとしないのだ。
「リーリア!お前また二位だったな!」
駆け込んできたのは男子生徒。赤髪に同じ深紅の瞳。
実技が一位のメストレ。名前からして貴族感が溢れている。
が、本当の貴族でもある。
「やっぱり俺の隣に立つならそれぐらいでないとな!」
リーリアはメストレの彼女でもある。メストレは視界に入ったフェンにむかって嫌味を言う。
「フェンリル。何だ貴様、あの実技の点は」
「君には関係ないだろ」
白けた顔でフェンは答える。その態度がメストレの勘に触った。
「あのフェンリル殿と同じ名だというのにその差は何だ!!」
「名前だけで人を判断するやつにとやかく言われる筋合いはない」
あの、とは学院始まって以来の才女と謳われたのが、フェンリルというのだ。
「リーリア。先に帰ってる。」
不機嫌に告げるその声にリーリアはメストレを睨みつける。
それに一瞬たじろぐがなんとか持ち直す。
「リーリア。あんなのと親交を深めるのはどうかと思うぞ」
どがん、と何かを破壊する音が聞こえた。
リーリアは溜め息を付きながらフェンを嗜めた。
「フェン、机と椅子が勿体無いから」
そこには木っ端微塵となった机と椅子、木屑の付いたフェンの姿。
ぱんぱん、と服についた木屑を払いながらフェンはメストレを睨んだ。
「こんなのが親友の彼氏とは思わなかった」
一言言い捨て、フェンは今度こそ教室を後にした。
振り返ると不機嫌なメストレ。リーリアはそれを見ながら忠告した。
「後で後悔したくないならフェンにそういうことを言うの止めたほうか良いわよ」
不可解な事を言うリーリアにメストレは顔を顰めた。
リーリアは言いたい事だけを言って、教室を後にした。
「フェン」
背後からの呼びかけにフェンは振り向いた。そこには漆黒を切り取ったような出で立ちの青年がいた。
「クラウス」
左に眼帯をした青年は足音も立てずにフェンに近寄った。
ふわりと漆黒のマントをフェンの肩にかける。
まるでフェンを護るように。
「フェン、まだ使うべきではない」
小さく震える右手を大きな彼の手が覆う。
「まだ身体に負担がかかるだろう」
顔色が悪くなっているフェンを気遣う。
ふ、と小さく笑い、フェンは首を横に振った。
「短気を起こした私が悪い」
「解っているなら直すべきだ」
このクラウスとは出合って三年になる。この学院に入ったばかりの頃に知り合ったのだ。本来なら知り合うことも無かった筈なのだが。
まったくもって自分の親のように口喧しくなってしまった。
「…クラウス。随分人間くさくなったな」
「……五月蝿い」
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