役立たずと兄

父親からの手紙を受け取った次兄、クレイドル。手紙の内容を始めは適当に見ていた。しかし、親友からの手紙に皇太子が絡んでいる、と書いてあったのを眼にした瞬間次兄は立ち上がった。
 居ても立っても居られず、飛び出そうとした次兄をある人物が止めた。
「まて、クレイドル。お前どこ行く気だ」
「フランドル!一大事なんだ!離せ!!」
「こっちも一大事だ。馬鹿者」
 ローテーブルには大きな白い布。問題はその布に散らばっているもの。
 沢山のカードが散らばっていた。その真ん中には小銭が山となっている。所謂賭け事の真っ只中なのである。
 座ったまま自分の服を掴む男を睨みつけながら、クレイドルはその手を放させようともがく。
 向かいに座る同僚は苦笑しながらそのやり取りを眺める。しかしクレイドルが退場してくれるのは非常に有り難い事だったりもする。
 クレイドルの観察力と動体視力は恐ろしい物があるので、クレイドルが付いていればボロ勝ち。居なければボロ負け。
 まさに勝利の女神もかくや、という所。
 フランドルがクレイドルを行かせたく無いのも理由がある。
 今の勝負の掛金が凄い事になってしまっている。そんな大事な時に頼みの綱のクレイドルにどこかに行かれたら負けは確定したも同然。
 必死になって止めるのは当然。彼自身の表情に必死、というものは窺い知ることは出来なかったが。
「妹が大変なんだ!カードなんかより大事だ!!」
「お前が妹が大変て言うのもいつもの事だろう」
 即座に切り返すフランドルにクレイドルは言葉に詰まる。そのやり取りを眺めていた同僚も、フランドルの言葉に頷いた。
「そうだな。いつもの事だな」
「お、お前までそんなことを」
 信じられないものを見たと言わんばかりのクレイドルの顔に、二人は呆れ返った。この筋金入りの妹馬鹿が。二人の視線はそう物語っていた。
「ふざけるな!スイの許に行かせろ!」
「スイ嬢の事だったのか?ならますます行かせる訳には行かないな」
「どういう事だ」
 二人はにやりと笑う。そしてクレイドルにとっては最悪の一言を吐き出した。
「殿下に足止めを仰せつかったからな」
 開いた口が塞がらないとはこのことか、とクレイドルは意識の遠くの方で考えた。
 スイ、兄ちゃんは役立たずだな、と心中で涙を流していた。

スイとフロウが友達になったその日のとある一風景である。